医学部に学士編入した臨床心理士のブログ

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医学部学士編入を考えた経緯 ある臨床心理士の場合

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臨床心理士として働いていて、辛いと感じたことはありませんか?

特に医療領域で働いていると、様々な問題に直面するはず。

私が臨床心理士として働くことを辞め、医学部学士編入の道を志した理由も、主にはそこにありました。

というわけで、臨床心理士として医療領域で働く際の困難に触れつつ、私が医学部学士編入を志した経緯について触れていきたいと思います。

 

私が臨床心理士を辞めて(アイデンティティとしては臨床心理士のままだが)、医学部学士編入を志した理由は主に3つある。①学問的理由②病院内における立ち位置的理由③経済的理由、だ。

 

臨床心理士は臨床心理学の専門家である。

 

何を当たり前のことを、と思われるでしょう。しかし、私にはわかっていなかった。

 

よく聞かれる質問として「臨床心理士って何をする仕事なの?」がある。頻出どころか必出の質問だ。これに対しては様々な答え方があるが、その一つとして「ストレスでお腹が痛くなったりするでしょう。心と身体は繋がっている。臨床心理士は心を経由して身体的問題や社会的問題などクライアントが困っている問題にアプローチするんです」的なものがある。

 

そうなのだ。臨床心理士はクライアントの問題について、受容と共感をベースに、心理学的視点から分析・考察し、仮説・見立てをもとに試行錯誤しながら、クライアントの援助を行っていくのだ。

 

しかし、実際に総合病院精神科で働いてみてわかったことがある。それは、心→身体も勿論あるのだが、身体→心もめちゃめちゃたくさんあるということだ。この辺りは、心身二元論とか一元論とか、込み入った話になる。

いずれにせよ、心と身体には相互作用があり、双方向性だと思っているが、それならば身体についても理解しなければ心を知ることはできないのではないか、と率直に考えました。臨床心理学を学ぶ大学院では脳機能や代謝内分泌系についてほとんど学ばなかったが、それではいけないと個人的には思う。

 

そんなわけで、臨床心理学をやる上でも、最低限の医学知識、というか人間の生理学については知る必要があると考えた。

※公認心理士試験ではわずかながら精神医学や脳神経についての出題があるよう。

 

病院内における私の意義

 

臨床心理士の病院内におけるポジションの問題がある。これは、病院によってかなり違うのだろう。臨床心理士精神科医療において中心的な役割を果たし、医師と対等に独自の専門性を発揮している職場もあるらしい。が、多くの場合はそうではないと考える。公認心理師の条文でも議論の湧いたところであるが、医師の指示のもと、心理検査や予診とりを行う心理士がほとんどではないだろうか。まれにカウンセリングも行っている医療機関があるくらいだろう。

しかし、私がここで言いたいのはポジションの問題ではない。そんなことは、どうでもいいのだった。問題は、責任の所在である。私は、幸運にもカウンセリングを行う総合病院精神科で勤務できた。そして週に数件のカウンセリングを行う、つまり数人のクライエントを担当するカウンセラーであった。このクライエントに対して、私は、その治療における責任を持ちたかったのだ。しかし、もし仮にこのクライエントが治療の過程で自殺したとしよう。その責任は私に向くだろうか。否、おそらくは主治医に向かうだろう。割合の問題だったとしても臨床心理士の方が主治医よりも責任が重くなることは、(臨床心理士のカウンセリングに明らかな問題が無ければ)ないだろう。

私にとっては、これが不満であった。これから長い人生を臨床心理士として、病院で働くと考えたときに、この責任の軽さでやっていきたくない、と考えたのだ。最終的に主治医が責任を取るのに、どうして自分がクライエントの治療方針に口を挟めるだろうか。

※もしもクライエントに不利益があった場合、個人的にも道義的にも私は責任を強く感じますが、それを主治医と比較した場合に、病院的に医療的にどうか、という話です。また、そもそも責任の感じ方を他者と比較することの是非、という問題もありますが、当時はそのように考えた、という話です。

 

まあ要するに、居ても居なくても変わらない存在のまま生きていくことが嫌になったのでした。

 

家が買える未来が見えない

 

最後は、現実的な問題です。臨床心理士は大学院を出ているにもかかわらず、その95%は経済的に非常に厳しい状態にある。私は1年目はSC(スクールカウンセラー)と病院を半々、2年目はSC:病院=2:8、3年目は病院のみだったが、収入は漸減であった。SCは非常勤だが時給は良い。しかし、私は病院での仕事が好きであった。

結婚や住居、子育て、老後の貯金などを考えたとき、この給料では厳しい。というか無理だ。臨床心理士は好きだが、食っていけないのだ。貧すれば鈍するのである。

 

チャンスは道を知ること

このように、アカデミックに考えて①の問題があり、私のアイデンティティの観点から②があり、現実的に③があった。この合わせ技で医師への道を何となく考えていたところに、精神科後期研修医がやってきた。彼はもともと製薬会社関係の人であったが、医学部学士編入をしてここにやってきたらしい。「学士編入ってなんですか?」という私の質問に丁寧に答えてくれ、またKALSについても紹介してくれた彼は、一種の命の恩人でしょう。

そこで、大学院の頃の指導教授(就職後もスーパーバイズでお世話になっていた)に、医学部学士編入の相談をしてみたところ、背中を押され、覚悟を決めたわけですね。

 

そうして、私は一部の親密な方にのみ、学士編入のことを伝え、その年の3月で職場を退職し、医学部学士編入のイバラの道に突入したわけですが、やはり簡単ではなかったのでした。

 

まとめ

 

臨床心理士として働くと、上記①②③は誰もが一度は通る道ではないでしょうか。私は医学部学士編入を選択しましたが、その他にも様々な問題解決法があると思います。

それぞれのやり方で課題を乗り越えていく力を、臨床心理士の皆さまは持っているはず。